船橋真俊

COVID-19は、人類が集団的に先送りしてきた課題を、たまたま顕在化してくれる立役者に過ぎない。そのメッセージをどれだけ真摯に深く受け止められるかが、人類の知恵の深さを測る試金石となっている。多くの商店が閉まり、国境が閉ざされ、愛する人々の最期に立ち会えなかったとしても尚、我々には気づかなければならないことがある。 すべての生命が生まれてきた源泉となる、生物の多様性。何故か単一種が物理的に増殖するだけでは成立することができなかった、この宇宙の根本的な制約条件であり、生きとし生けるものに与えられた課題。なぜ、これほどに多くの生物が必要なのか。なぜ、無駄な命というものが存在しないのか。人間の脳でも認識しきれない、ビッグデータでも網羅することができないこの無限増殖する個性を、超多様性(megadiversity)とでも呼ぼう。  これまで、多様性はどこか遠い未来に向けて叫ばれるだけだった。しかし、今では誰もが身をもって感じている。我々が今急速に失っているもの、不安、痛み、お金、トイレットペーパー、笑顔、そして希望。それらを物言わずずっと支え続けていてくれたのがこの超多様性であったことを。 世界規模のパンデミックは、同時に各地に新しい機会も生み出す。資本主義的な競争からの一時的な離脱。人々の連帯に基づいた、時間、文化、創造性の共有。真の食料自給率の再考や地方農業への支援。社会的弱者の保護やグローバルな停戦への呼びかけ。 COVID-19が生まれてきた理由、そこに文明と自然を再び撚り合わせる、新たな鍵が見え隠れしていないだろうか。